目的達成への評価と処方

 個人に合わせて設定した目標を達成するために、シーティングの基本的な3つの目標について評価を行います。各目標の達成のためにどのような保持が必要かを考え、そのために必要なシーティング機器を選択し、体に合わせた設定を行います。基本的な目標は、成人と小児に分けて、以下のように考えられています。子供であっても二分脊椎のように褥瘡の心配があるときは、「褥瘡の予防」についても考慮したり、成人でも脳性麻痺のように変形・脱臼・拘縮等の二次障害の心配が考えられる障害の場合は「成長に対しての予測と対応」に対して再度評価を行います。

シーティングの目的

1. 安定性の提供

 車いすを使用している方の座位姿勢での安定性と正しい姿勢に最も影響するのは、骨盤の傾きです。骨盤の悪い傾きを改善して、骨盤を正しい傾きで安定させることが座位の安定性と良い姿勢の確立、そして機能性の向上につながります。車いす上での骨盤の傾きは、骨盤よりも下の部分(下半身)の姿勢と骨盤よりも上の部分(上体や頭)の姿勢にも影響を与えます。骨盤を正しい傾きに保持することで、変形、褥瘡、そして拘縮や脱臼などの二次障害の発生を予防したり、悪化を防止することができます。

 健常者は充分な筋肉によって体を保持することが可能です。意識しなくても体を安定させることができます。しかし体に麻痺や障害がある場合、体を支えるための筋肉に問題(麻痺や弱さ)があるので、筋肉に代わって体の外側から体の保持をサポートする必要があります。
 頸随損傷や四肢麻痺など重度な障害がある場合、正しい骨盤の傾きを維持して座るのは無理だと考えられていました。無理して骨盤を垂直にして座らせれば、上肢の使用時などに倒れやすなって機能性が低下してしまうのです。そこで仙骨座りと呼ばれる左右の坐骨と尾骨の三点で支える、骨盤を後傾させた姿勢で座り、正しい姿勢は諦めて、自立のために機能性を追求していました。骨盤を後傾した姿勢では背骨が曲がった円背(えんぱい)傾向になり様々な問題が発生します。しかし自立するためには選択肢がありませんでした。
 しかしそれはシーティング機器が存在していなかった時代の話です。車いすやバギーの座布や背布と呼ばれるシートでは、充分な骨盤の保持を行うことができません。障害やニーズに応じたシーティング用のクッションとバックサポートを選択し、ずり落ちを防止して、高さと角度を適切に設定すれば、重度な障害があっても正しい骨盤の傾きを確立して良い姿勢をとることは可能です。
 骨盤の正しい傾きでの保持を行い、正しい姿勢での安定性の提供を行うのがシーティングの第一の目的です。正しい姿勢を提供することで、変形・褥瘡・拘縮・脱臼・呼吸器系・消化器系・循環器系などの二次障害の発生や悪化を防止することが可能です。
 骨盤が後傾していない姿勢は機能性の向上にも役立ちます。機能性を最大限に発揮できる姿勢を提供するのもシーティングの大切な目標です。


2. 快適性の提供

 健常者の場合、座っていて不快になれば、姿勢を変えて不快感から逃げることができます。しかし車いす使用者の場合、不快になっても自分で姿勢を変えらない人が多く、車いすに乗ることが苦痛になってしまいます。快適性とは座り心地の良さのことであり、座っていて不快感を感じるまでの時間や離床時間(ベッドから車いすに起きている時間)が快適性の目安となります。
 車いすに乗っていられる時間は、機能的な活動をするために充分な時間でなければ意味がありません。1〜2時間ではたいした活動はできないでしょう。食事や通院のためだけに車いすに乗るのでは楽しくありません。私は車いすに朝乗ってから夜寝るまで18〜20時間ずっと車いすに座っています。車いすから降りるのは自動車を運転する時くらいです。その18〜20時間の間、痛みや不快感を感じることはありません。それは車いすとシーティングが私に合わせて適切に設定されているからです。
 車いすが快適性を提供できるように設定するためには、車いすに加えて、クッションやバックサポート等のシーティングについて正しく評価して設定する必要があります。まずは正しい姿勢を提供することが快適性の第一歩です。次に座面と背面の設置面を最大限にとります。設置面が多いほど圧は分散され、快適性が提供できます。頭部サポートやラテラルサポートを使用している場合は、その角度や設置面積についても使用者に合わせて設定します。
 成人や子供はもちろん、高齢者にとっても快適性の提供は不可欠です。車いすに座るとき、短時間で不快感を覚えるようであればベッドに寝る方が楽になり、寝たきりに向かってしまうことが多々あります。ベッド中心の生活になることで、褥瘡の危険性は高まり、関節の拘縮、呼吸器系の疾患、消化器系の機能の低下、食べたり飲み込むことにも問題(誤嚥等)が生じます。その上、寝たきりの状態では、気がめいり、憂鬱で、精神的にも良いことはありません。認知症にも繋がりやすいと考えられています。車いすで長時間快適に活動できる姿勢を提供することがとても重要なのです。


3. 褥瘡の予防

 座っていて、痛みを感じることができれば、姿勢を変えて痛みから逃げることができます。しかし痛みを感じることができなければ、姿勢を変えたり、車いすから降りることができません。その結果として褥瘡が生じてしまいます。長時間座っていても痛みや褥瘡が生じないように、車いすを設定し、クッションやバックサポートを処方することが必要です。
 褥瘡予防クッションに必要なのは、座圧の分散と座圧の均一化です。圧を受けても褥瘡にならない腿や大転子の下を高くして圧を受け止め、褥瘡になりやすい坐骨と尾骨の下は低くして高い圧がかかるのを防止します。坐骨と尾骨の下には可能な限り反発力の少ない素材を使用して坐骨や尾骨等の骨張った部分に圧がかからないようにします。素材の反発力が大きければ大きいほど、骨張った部分の先端に高い圧がかかり、褥瘡の原因になります。低反発クッションを使用する場合は、様々なレベルの反発力があるので、使用者のニーズに合わせます。J2クッション等に使用されている流動体や空気圧を適切に調節したロホ・クッションでは、無反発に近い状態を提供することが可能です。
   骨盤を正しい傾きで保持すると、尾骨が座面から浮くことにも注目してください。尾骨の褥瘡予防のためには骨盤を正しい傾きで保持することが大切。片側の坐骨の褥瘡予防のためにはクッションの左右のバランスを使用される方のニーズに合わせて骨盤を左右水平にすることが大切です。
 いくら優れた褥瘡予防クッションを使用していても、座り方が悪ければ、最大限の効果を得ることができないばかりか、褥瘡を発生させてしまうことさえあります。そのために、シーティング用のバックサポートを使用して、骨盤と背面にしっかりとした保持を提供します。
 褥瘡は一度なると再発しやすくなります。予防が一番です。褥瘡がなくてもリスクが高ければ予防のために褥瘡予防クッションとシーティングによる姿勢保持を提供する。褥瘡が生じたら可能な限り早い段階で対応する。治ったら再発させないことを目的にシーティングを活用してください。座り方が悪ければ、褥瘡は何度でも再発します。
 ベッド上より、車いすの方が褥瘡に対して考慮すべき箇所が少ないのは事実です。車いす上で注意すべきは左右の座骨と尾骨。これらの部分に対して上記の方法で対応すれ褥瘡の予防や再発防止は可能です。それ以外の骨張った部分、例えば仙骨付近の褥瘡は座位ではなく就寝時等の姿勢から生じています。仙骨は正しい座位をとれば浮かせることができ、仙骨付近の褥瘡はシーティングで治すことが可能です。
 円背のある方などの背骨付近に生じる褥瘡は、ケア・バックやモジュラーバックなどのバックサポートを使用して、圧が集中しないように分散すれば防ぐことができます。この時も、クッションの設定やバックの角度や高さなどにシーティング技術を使用します。


3. 成長に対しての予測と対応

 子供は成長します。成長に合わせて体に合った車いすとシーティング機器を提供しなければ変形・脱臼・拘縮等の二次障害の原因になります。しかし何年か後の成長を予測した大きめの車いす1台でその期間を乗り切ろうとすることで、変形等の二次障害が生じている障害児・者は数え切れません。
 欧米では成長に合わせて、車いすの幅、奥行き、足乗せの位置・背もたれの高さなどが変更できる成長対応の拡張対応型車いすが普及しています。このような車いすはフレーム等が生涯保証のであるために、幼稚園(3〜4歳)から高校卒業まで(17〜18歳)同じ車いすを使用することができます。多くの場合その後も同じ車いすが使用されています。最も大切なのは、その車いすがいつでも体に合っているということです。それが変形・脱臼・拘縮等の二次障害の防止に役立ちます。
 日本では、障害児の変形の発生は「運命」だと考えられています。しかし障害によって変形するのではなく、障害によって失われたり、弱かったり、バランスの崩れた筋肉によって、自らを保持できないために悪い姿勢をとることになり、悪い姿勢の影響で体が変形したり、股関節が脱臼したり、関節が拘縮したりしてしまうのです。
 生まれたときは変形は生じていません。姿勢はまっすぐです。その自然な姿勢を、車いすとシーティング機器の正しい設定によって保つ、というのが「成長に対しての予測と対応」の考え方です。
 そのためには、成長に合わせて拡張できる車いすとシーティング機器の使用が不可欠であり、安定性と快適性の提供により、長時間使用することが可能になり、機能性の向上に繋がります。
 最近では、シーティングの組み込まれたベビーカーもあり、生後半年からシーティングを使用して変形等の二次障害を予防しています。ここでも、予防が大切であるため、可能な限り早い時期に行い、特に変形が悪化する成長期の前に正しく設定された車いすやシーティングを提供することが推奨されます。


最終的な目標

 上記の目標を達成して良い姿勢を提供することによって最終的に目指す目標は「機能性の向上」です。まずは残存機能を最大限に発揮できるように、それを阻害している悪い姿勢を改善します。そしてこの最終段階で向上させたい機能には、車いすや電動車いすの操作、食べる、飲む、洋服を脱ぎ着する、コンピュータや意思伝達装置を使用するなどの運動機能と、呼吸器系、消化器系、循環器系などの生理機能があります。これらの機能を向上させることで、最終的な目標である、自立生活、介護軽減、社会復帰、職場復帰、就学、就職等、経済的自足に繋げます。重度な障害があっても知的に問題がなければ可能性をとても高く、重複障害があっても自分でできることをどんどん増やすことで様々な可能性に繋がります。シーティングは障害者の自立に不可欠なもです。まずは残存機能が最大限に発揮できる姿勢の提供からはじめましょう。

 このページに書いた内容に加えて、シーティングについて私がこれまでのセミナーでお話ししていてる内容を中心に姿勢とシーティングについて書いた本「運命じゃない!シーティングで変わる障害児の未来」が2008年6月に出版されました。この本は障害児(者)の家族向けに書きましたが、シーティングについての内容は成人障害者や高齢者にも使える内容です。これまでにお手伝いさせていただいた方のご家族の協力を得て、多くの実例も紹介しています。詳しくは、こちらからどうぞ。