シーティング技術

シーティングとは、簡単に言うと、車いす上で正しい姿勢をとるための技術のことです。欧米では25年以上の歴史があり、PTやOTには、車いすとシーティングを専門とするシーティングスペシャリストと呼ばれる人達が多く存在し、個人の車いす上の姿勢について評価し、問題解決や目的達成のために車いすとシーティング機器を設定して提供するシーティング・クリニックも多くの病院やリハビリセンターで行われています。
日本では、車いすを単に購入して使用しているのをよく目にしますが、シーティングの盛んな欧米の国々では車いすも義足や装具と同様に体に合わせて採寸し、アラインメントや関節の可動域などを考慮して作成します。運ぶためだけの車いすなら既製品でも充分かもしれませんが、車いすが必要な障害児・者や高齢者を離床させて、快適に長時間活動できるようにして、自立支援や介護軽減をめざすのであれば、車いすにも適切な採寸と体の評価が必要になります。
車いすが体に合っていなければ、ずり落ちたり、片側に傾くなどの悪い姿勢をとることになり、疲れ、痛み、褥瘡、変形、拘縮、脱臼などの二次障害が生じてしまうのです。車いす上の姿勢の悪さによって生じる問題は、この他にもたくさんあります。飲み込みにくさ、食べにくさ、誤嚥、肺炎などの呼吸器系の疾患、高い筋緊張や痙性による問題、消化器系や循環器系の問題などです。
多くの問題に対して、個別に解決しようとする努力は、これまでにも様々な形で行われていたのですが、問題の根本である「姿勢」自体の改善がされなかったため、根本的な問題の解決ができずに症状が悪化したり再発したりしていました。
シーティングでは、座位姿勢の基本となる骨盤の傾きを改善することで、姿勢を改善し、問題の根本を解決することで、症状を解決するという方法をとります。まずは根本となる骨盤の悪い傾きを改善することが大切なのです。
座位保持は重度障害者に必要なものと考えられていましたが、シーティングは重度な障害の方だけでなく、脊随損傷や歩行が可能な軽度の障害の方にも使用される技術です。様々なレベルの障害の方の安定性と快適性を向上し、離床時間を延長し、二次障害を防止することを目的とします。そして最終的な目的は残存機能を最大限に発揮できるようにすることであり、運動機能と生理機能の両方を向上することにあります。
シーティングは、すでに生じている問題への対応だけでなく、変形や褥瘡などが生じる前に防止する「予防」にも多く使用されています。すべての車いす使用者に必要な考え方なのです

私とシーティングの出会い

私は、脊随損傷による車いす使用者で、障害は右側が胸随の10番、左側が9番の完全麻痺です。左右の障害レベルが異なるため、受傷直後から左に傾く傾向がありました。1982年に留学先の米国から帰国した際に長時間飛行機のシートに座っていたことで左側の坐骨に褥瘡が生じてしまいました。その褥瘡は何とか治したものの、左側の坐骨付近に褥瘡ができやすくなり、何度か再発しました。
1985年の帰国後、86年に褥瘡が悪化し、入院して初めての手術を受けました。しかし手術の縫合位置を坐骨の真下にされてしまったことで、6ヶ月後に再発して再入院して再手術をしました。しかし8ヶ月後にまた再発し、何とか治したものの4ヶ月後にはまた再発したため、脊随損傷の専門病院に入院して再手術を行いました。その入院では3ヶ月の入院の間に3回の手術をしました。その後も何度か再発を繰り返しましたが、入院はせずに何とか治療をしながら仕事を続けていました。
1990年末にアクセスインターナショナルを設立した私は、車いすのクイッキーに続き1993年に、車いす用シーティングシステムのパイオニアであるジェイメディカル社の日本総代理店になりました。渡米してトレーニングを受けると共に、日本で初めてのシーティングセミナーを開催。米国から招いたシーティングスペシャリストであるPTの通訳として関東の7つのリハビリ病院でセミナーを行いました。これらの経験によってシーティングによる褥瘡治癒の可能性を学んだ私は、ジェイメディカル社の紹介を受け、94年にコロラドのクレイグ病院に入院して手術を受けました。
手術自体は、日本で行われているものと大差ありませんでしたが、大きく違ったのは車いすに乗ることが可能になるとすぐにシーティングクリニックを受診、骨盤の傾きを治し、再発を防止するためのクッションとバックサポートを処方されたことです。その後十数年間、褥瘡は一度も再発しませんでした。
事故に遭って脊随損傷になっても落ち込まなかった私ですが、度重なる褥瘡による合計12ヶ月以上7回の入院と6回の手術にはかなり落ち込みました。ベッドに寝ていなければならず動けないことは自分にとって最大の精神的苦痛でした。脊随損傷なのだから、この苦しみを背負って生きていかねばならないとさえ考えていた私を救ってくれたシーティングには感謝してもしきれないほどです。

シーティング・スペシャリストへ

1994年に米国での手術とリハビリを終えた私は、自分を救ってくれたシーティングの考え方と技術を日本に伝えたいと、ジェイ・メディカル専属のPTからトレーニングを受け、シーティングを学びました。帰国後の9月には米国からシーティング・スペシャリストを招いて関西の6つの病院やリハビリセンターでシーティングセミナーを開催しました。翌年は関東の7病院で開催。通訳をすることでシーティングを学んだ私は、更に技術を磨くために欧米の講習会に参加。国際シーティング・シンポジウムやカナディアン・シーティング&モビリティ・コンフェレンスなどの講習会に毎年参加して最新のシーティング技術と情報を取得しています。シーティングの分野には、毎年のように新しい製品や技術が開発されるため、2~3年前の知識では役に立たないことも多いのです。
今年で、シーティングを日本に紹介してから16年が経ちました。「シーティング」という言葉が認知されてきたのは良いことですが、単に車いすを調整することをシーティングだと考えている人達もまだ多く、実際にシーティングが提供できるの人はまだとても少ないのが現実です。更なる普及とシーティングによる問題の改善を提供するために、まだまだ多くの方にシーティングを知っていただきたいと考えています。
現在私は、毎月日本のどこかで、シーティングセミナーを開催し、シーティングに対する正しい考え方と処方技術の普及に努めています。またシーティング技術の普及に欠かせないシーティング製品の提供のために、私の会社であるアクセスインターナショナルでは、世界のシーティング関連のトップメーカーの日本総代理店として活動し、世界のトップレベルのシーティング製品を日本に提供しています。

 日本総代理店として活動しているシーティングの世界的なトップメーカー

 ・ ジェイ(サンライズメディカル社) (シーティングシステム)
 ・ クイッキー(サンライズメディカル社) (手動車いす、電動車いす)
 ・ ボディポイント社 (ポジショニング・ベルト製品)
 ・ ウィットマイヤー・バイオメカニクス社 (ヘッドサポート製品)

このシーティングのページでは、私が関わるシーティングの情報についてご紹介しています。興味を持たれた方は、ぜひシーティングセミナーにご参加ください。セミナー自体はシーティングの概念と技術を中心としたもので、特定の商品を使わなければならないという商業的な内容のものではありません。セミナースケジュールと参加申込みについては、こちらをご覧ください。
施設や病院内でのセミナー開催、学校・グループ・団体のご依頼による講習会や勉強会の開催依頼も受け付けています。セミナー開催依頼についてもこちらをご覧ください。
東京と大阪では無料のシーティング相談・体験会であるシーティング・クリニックを予約制で提供しています。シーティング・クリニックのご予約についてもこちらをご覧ください。

シーティングの著書について

シーティングについて私がこれまでのセミナーでお話ししていてる内容を中心に姿勢とシーティングについてまとめた本「運命じゃない!シーティングで変わる障害児の未来」が2008年6月に出版されました。この本は障害児・者の家族向けに書きましたが、シーティングについての内容は成人障害者や高齢者にも使える内容です。これまでにお手伝いさせていただいた方のご家族の協力を得て、多くの実例も紹介しています。シーティングに興味を持たれた方はぜお読みください。詳しくは、こちらからどうぞ。